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治療について

事故により怪我をした場合,まずは治療に専念します。 完治するか又は治療を継続してもこれ以上改善しない状態(これ以上改善しない状態になることを症状固定といいます。)にならなければ,被害者に生じた損害額が確定できず,示談交渉が始められないからです。

治療費や通院交通費等は後に損害として加害者側に請求するので,いくらかかったか把握する必要があります。そこで,必ず領収書やメモを残しておきましょう。

1 治療費は誰が負担するのか

治療費や入院費等は,事故と関係があると認められる範囲で,加害者に対して請求することができます。
しかし,実際に被害者にお金が支払われるのは,治療が終了して損害額が確定し,示談が成立するか又は調停や裁判が終了した後です。そのため,交通事故が発生してから半年や1年以上経ってからやっとお金が支払われることが多々あります。
つまり,加害者から損害賠償としてお金が支払われるまでは,治療費や入院費等は,被害者が立て替えて支払わなければならないのです。

【仮渡金制度】

しかし,それでは,治療費等を立て替える余裕がない被害者は,治療を受けることができなくなってしまいます。
悪質な加害者や保険会社の場合,治療費等を立て替える余裕がなく,早く損害賠償を支払ってもらいたい被害者の足元を見て,不当に低い金額を提示して示談を迫るケースもあります。
そこで,そのような自体を解決する制度として,本来損害額が確定してから支払われるはずの自賠責保険金の一部を前払いで支払ってもらえる制度があります。
この前払金を,仮渡金といいます。
仮渡金の金額は,死亡の場合は290万円,怪我の場合は,怪我の程度によって金額が異なり,怪我が重篤な順に,40万円,20万円,5万円の3つの場合があります。

【任意保険会社の内払い制度】

また,同様の趣旨の制度として,自賠責保険からの仮渡金とは別に,任意保険会社のサービスとして,任意保険会社から内払金の支払いを受けられる場合もあります。

【仮渡金等の請求方法】

仮渡金や内払金の請求に必要な書類は,保険会社に頼めば交付してもらえます。

【仮渡金の清算】

仮渡金や内払金は,最終的に支払われるべき損害賠償の一部を前払いするものですので,後に示談が成立し又は調停や訴訟により損害額が確定して加害者側から被害者に損害賠償が支払われる際,仮渡金を引いた金額を渡されることで調整されます。
もし,確定した損害額が仮渡金より安かった場合は,被害者はその差額を返金しなければなりません。
なお,当面の立替金の解決策として,加害者が加入している任意保険会社と交渉して,加害者の保険会社から被害者が治療に通っている病院に対して直接治療費を支払ってもらうこともできます。

2 いつまで治療を続ければいいのか

交通事故に遭って怪我や精神的ショックを負った場合,病院で治療を受けることになります。

被害者の怪我等が完治することが最優先ですから,怪我が完治するまで治療を続け,怪我が完治して治療費や通院交通費などの損害額が全て出揃ってから,加害者側と損害賠償額についての交渉をすることになります。
では,被害者がむち打ち症になっており,長期間治療を続けているにもかかわらず痛みが消えない場合も,痛みがなくなり完治するまで何年でも治療を続けるのでしょうか。

いつまで治療を続ければいいのか

この場合,治療を続けてもこれ以上良くならないと判断された時点で治療を打ち切り,その時点を区切りとして交渉に入ります。
その時点である痛みなどの症状は,後遺障害と考えて,後遺障害が残ったことに対する慰謝料や,後遺障害が残ったことで働けなくなった分の埋め合わせ(逸失利益)を損害として請求していくことになります。

痛みなどの症状は,いつかはなくなり完治するかもしれません。
しかし,その“いつか”が来るまで延々と事件の解決を長引かせては,加害者も被害者も落ち着きません。
そこで,ある程度のところで“治療を続けてもこれ以上良くならないので,これ以上治療をしても意味がありません。治療はこれで打ち切りにして,これまでにかかった治療費を計算しましょう。残った症状は後遺障害として慰謝料等を計算することにして,交渉に入りましょう”とするしかないのです。
“治療を続けてもこれ以上良くならない”状態になることを,「症状固定」といいます。
「症状固定」という言葉は,交通事故紛争の様々な場面で重要な言葉になります。
たとえば,交通事故で怪我をしたため仕事を休んだとして休業損害を請求する場合,症状固定日までは“休業損害”として金額を計算し,症状固定日後は,後遺障害によって労働能力を喪失したと考えて逸失利益として損害賠償を請求することになります。

3 後遺障害診断書をもらうよう保険会社に言われたら

交通事故が起きた場合,加害者が被害者に対して損害賠償を支払います。
加害者が任意保険に加入している場合,加害者が被害者に支払った金額を,加害者が保険会社に請求し,保険会社が加害者に対して保険金として給付するという構造になっています。
 もっとも,多くの場合,加害者も被害者も交通事故に詳しくないため,加害者が加入している保険会社の担当者が被害者と直接交渉(示談交渉)し,保険会社から被害者に対して損害賠償を支払っています。
 任意保険会社は,被害者に支払う金額を抑えることができれば利益になります。
そこで,任意保険会社は,被害者が請求した治療費や通院交通費,休業損害等について,一つ一つ,過大に請求されていないか精査します。
その過程で,任意保険会社は,“この治療はあなたの怪我を治すために必要な治療とは考えられないので,この治療費は支払いません”と言ったり,“あなたのお仕事内容と怪我の具合からすれば,仕事を休む必要はなかったと考えられますので,休業損害は支払いません”と言ったりして,損害賠償の金額を下げることがあります。

 このような任意保険会社の対応は,被害者に生じた損害を埋めるという損害賠償の理念からすれば,正当な行為です。
 しかし,このような精査が過剰になり,任意保険会社が,本来支払うべき損害賠償すら支払わないよう画策する場合もあります。

後遺障害診断書をもらうよう保険会社に言われたら

その代表的な例が,「示談交渉をするために,後遺障害診断書を医師に書いてもらってください。」と被害者に言う場合です。
任意保険会社からこのように言われれば,被害者は,“早く後遺障害診断書を書いてもらわなければ,損害賠償を払ってもらえない”と考えて,医師に診断書を書いてもらうでしょう。
しかし,任意保険会社に言われるままに医師に頼んで後遺障害診断書を作成してもらうことは,絶対にしてはなりません。
後遺障害診断書とは,“その診断書に書かれた症状固定日の時点で,記載のとおりの後遺障害が残っている”という医師の診断書です。
つまり,医師が後遺障害診断書を作成するというのは,“この時点で,この患者さんにはこのような後遺障害が残っています。つまり,治療を続けても良くならないので,これ以上治療をする必要はありません。”という意味を持っているのです。
後遺障害診断書があれば,任意保険会社は,“症状固定日より後は,治療の必要が無いと判断されているのだから,治療費を支払う必要はありません。休業損害も支払う必要はありません。”と言って,支払いを免れようとするのです。
このように,後遺障害診断書は,損害賠償額に大きく影響するので,任意保険会社に言われるままに医師に書いてもらうのではなく,担当医の見解に従って,担当医が専門的見地から見て“これ以上良くならない状態になり(症状固定),後遺障害が残った”と判断されてから書いてもらうようにしてください。

4 むち打ち症について

むち打ち症は,追突事故などによって,首が急激に前後や左右に振られることによって起こります。簡単に言えば,首が,“がっくん”となる場合です。
頸部捻挫,頸部挫傷,頸部軟部組織損傷などと呼ばれます。
むち打ち症は,以下の理由から,交通事故損害賠償事件で問題となるケースが多くあります。

【他覚症状が出にくい】

むち打ち症は,首の痛み,頭痛,耳鳴り,めまい,吐き気,手足のしびれなど,自覚症状が多様で,症状が長引くことが多くあります。
他方,自覚症状があるだけで,レントゲンやMRI等の画像検査を行っても症状が現れにくいため(他覚症状がない),客観的に判断しにくく,多くの場合,患者の訴える自覚症状をもとに診断しています。
  そのため,被害者は症状に悩まされて治療に通っているにもかかわらず,加害者や周囲の人からは,もう治っているのではないか,治療費がほしいために治療に通っているだけではないかと思われ,加害者や加害者が加入している保険会社から,治療費の支払いを拒まれるケースがよくあります。
逆に,他覚症状が出にくいことを逆手にとって,本当はむち打ち症の自覚症状がないのに,治療費や慰謝料を請求するために,むち打ち症だと偽って(詐病)治療に通い,損害賠償を請求する悪質な被害者もいます。

【症状が精神状態に影響されやすい】

むち打ち症は,精神状態に影響されやすいため,交通事故に遭ったショックやいつまでも損害賠償の決着が付かない精神的負担などにより,治療が長引いてしまうことがあります。
そのため,他の怪我と異なり,症状が被害者の性格に左右されることがあります。
そうすると,どこまでが交通事故と因果関係がある症状なのかが問題となります。
被害者自身の特異な事情によって生じた損害まで加害者に請求することはできませんので,加害者は,その症状は事故から通常生じる症状ではないと主張し,被害者は,被害者自身の特異な事情によるものではなく,通常の損害であると主張して,損害賠償額を争うことになります。

 実際の裁判では,被害者に特異な事情があってむち打ち症が重篤になった場合に,請求金額よりも低い金額を認定したケースもあります。

後遺障害として認定されるか

【治療期間】

さきほどで述べたとおり,むち打ち症は,他覚症状がないため医師から治療を打ち切りづらく,また,人によって長引く程度が異なるため,通院慰謝料や治療費の算定基準となる治療期間をいつまで認めるかが大きな問題となります。

実務では,

  • 事故の態様(衝撃の程度,被害者の体勢など)
  • むち打ちの症状が現れた時期,症状の変化,当初の医師の診断,治療経過

などを考慮して,被害者が治療をしたと主張している期間が相当か否かを判断しています。
 一般的には,2~3か月から6か月程度が一応の目安とされていますが,追突した加害者の車がスピードを出していたため衝撃が強かったなどの事情があれば,むち打ち症の程度も重篤と考えて,より長い治療期間を認める場合もあります。

【後遺障害として認定されるか】

むち打ち症が後遺障害として認定される可能性があるのは,

  • 12級「局部に頑固な神経症状を残すもの」 又は、
  • 14級「局部に神経症状を残すもの」

です。
もっとも,後遺障害として認定されても,むち打ち症の場合,後遺障害が残ったことによる逸失利益を計算する際の労働能力喪失率が,同じ等級の他の後遺障害よりも小さくされることがあります。
また,労働能力喪失期間は,本来,働くことができる上限の年齢(現在は67歳とされています。)に達するまでの年数とされますが,むち打ち症の場合,5年や10年に限定され,それ以降は労働能力の喪失がないとされるのが一般的です。
なぜなら,後遺障害は本来これ以上良くならないはずではありますが,実際は,むち打ち症は数年経てば改善するケースがあるので,足を切断したケース等とは異なり,働くことができる上限の年齢に達するまでずっと労働能力を喪失しているとは言い難いからです。